小説家・笙野頼子の最新情報をまとめたサイト。

お礼とお知らせ近況報告

文・写真=笙野頼子 update:2020/08/12
last update:2020/09/07

水晶内制度復刊しました。

 復刊しました!長きにわたる熱いご所望、紙の本を新品でという絶叫ツイート、しかしここまでの時間が掛かりました。どれほどの困難があったかを言い尽くせません。それでも私にはこの本を復刊する義務も権利もあると思って、大震災後こそ諦めませんでした。お待たせいたしました。自作解説五十枚加えております。

 作中に神話の書き換え、ケガレと差別、心の性別、国家とは何か等、さまざまな問題を含みながら、女の家、女の街路、女の国家、女の世界を描いています。

 むろん文学なので男性が読めないという事は絶対ありません。どうぞお読みください。作中人物には男をモデルにした女が何人も隠れています。

 この資料室のモモチさんを初めとして、版元ツイッターの告知を拡散してくださり喜んで下さった方々にお礼申し上げます。お蔭をもちまして予約多数、発売前に増部数決定です。

 何よりも「売れない、真面目過ぎてつまらない、大震災以後意味のない、女のヒステリー本」の復刊を叶えてくださった、エトセトラブックスの松尾亜紀子社長に感謝します。

 なお版元のエトセトラブックスとは既に話題の新しいフェミニズム出版社です。エトセトラという名前からも判るように、杓子定規なあるいは学問的に限定されたフェミニズムではなく、古典的な外国の名著や今の女性達の現実の声や、さまざまな傾向のものを取り上げています。

 実は出版社を作ると言って彼女が会社を辞めた時に「名前をどうするか迷っています」というメールを貰いました。私はふと「ウラミズモ観光局に、する?」と言いたくなってしまいそれを我慢するために返信しませんでした。やはり、エトセトラブックスという名前が良いと思います。

 松尾さんは純文学専門誌の編集者だったこともある人で水晶内制度も元のミルキィ・イソベさん装丁の本を二冊持っていた程、「出したい出したいと思っていたけれども、大きい会社が出すに違いないと思って、遠慮していた」と言ってくれました。

 彼女はまた前の会社を辞める前に出すべきものとして北原みのりさんの「日本のフェミニズム」を私の担当者の協力も得て手掛けました。私は対談において、文学の側から発言し喜んで参加しています。

 ついでに言うと彼女は北原みのりさんとともにフラワーデモの発起人になっていて事務方も殆どやっていました。なおフラワーデモとはこの女性二人が立ち上げて各地の女性が参加し一年で全国組織に育ったデモ、女性被害者に対する不当判決への怒りを契機として発足したそうです。それ故男性も参加は可能ですが、性暴力被害者が安心して参加、スピーチも出来るように、プライバシーに配慮し撮影等にも厳しい制限があります。デモ中の迷惑行為等絶対許しません。最近もこのデモに関する無神経な提案があったので徹底して断ったという事です。

 フラワーデモは北原みのりさんのツイートにあるように女性に対する思いが溢れる活動です(ちなみによく同一視されるスプリングという団体は経過もメンバーもまったく違う別の存在です、ただ、性犯罪の罰則強化、というか適切な処罰を求めるという点で一点共闘をしているのだそうです)。

 とここまで書きましたが実は、私は私小説家でなんでも書いてしまう人間ですので、何か迷惑かけるといけないためこのフラワーデモには関与しません(取材も行きません、迷惑かけるから)。

 という説明はちょっと唐突ですが、私のような毀誉褒貶の激しい人間と連帯してくれるありがたい編集者のやっている事です。

 ちなみに私めはここ二年程ネットでは殴れ殺せとか言われていて、最近は石打ち拷問とまで言われています。仕事先にも嫌がらせが来ているほどで、しかし味方の態度は変わりません。

 ともかくこんな私の「問題点」を知った上で彼女は私と付き合い、水晶内制度を刊行してくれました。なお、解説を読めば今、私が何を考えているかの六割くらいまでは判ると思います。どうぞよろしくお願いいたします

会いに行って−−静流藤娘紀行、その後

 緊急警戒発令で、一ヵ月遅れの発売となりましたが読者のところには無事届いているようです。若い方から質問を頂きました。

 P108にある「日本文学者の会」というのは「新日本文学会」の誤植ではないですか

というもの。

 ところがこの表記、実は志賀直哉の手紙をそのまま引いたもので、さらにP124へ読み進むと該当部分の手紙の引用が出てきます。なおかつ、原典「志賀直哉・天皇・中野重治」をあたると、この表記が新日本文学会を意味するという注がついています。これは「志賀さん」の言い間違いではなく言い換えだと思って残しました。とても彼らしい感じ。

 しかし原典に当たってない読者が戸惑うかもしれないとこの質問によって気づきました。ただそれでも「志賀さん」のこういうセンスはお固い感じが嫌いとか或いは怒っている時の人間味が出ていて面白いのでそのままにしておき、なおかつ文が崩れないように増刷の時に少し説明を加えようと思っております。例えば「日本文学者の会(と志賀さんは表記)」などと。

 この質問された方は大変感じよく礼儀正しくて感心しました。

藤娘エッセイ訂正

 本のエッセイ「会いに行って書いた」の中に青木鐡夫さんのお住まいを浜松市と書いてしまいました。しかし師匠のペンネームと同じ市にお住まいです。失礼いたしました。

本の装丁について説明追加。

 群像のツイートに本の表紙はシルバーグレーとありましたがそうではなく、実際は青地です。私の質問に回答してくれたミルキィさんの許可を貰ってメールから引用いたします

表紙は「青い紙に銀色で印刷してあります」、「銀色のインキは不透明インキなので下の紙の色をかくします」、「青い文字のところは実は白抜きしているので、インキが印刷されていない部分になります」、「銀色インキは(インキとしては粒子があって粗くて)粉っぽくて乱反射するので神々しいのです。」

 ということです。素晴らしい!

あと「会いに行って」すごくどうでもいい事

 私が藤娘において批判あるいは嫌味くさく言及している吉本と丸谷、この二名については生前から名前をあげて批判しております。

その他の近況

 ワープロとトイレタンクが壊れました。タンクはなぜか自分で修繕出来ました。意気軒昂です。その他にはデジカメのレンズに水が入りましたしかしこれも自分で修複出来ました。自信満々です。しかしワープロはさすがにどうしようもない。一台を修理して一台を買い換えました。

 九月発売の群像十月号に百六十枚、発表予定です。前の短編が増えた結果ですが遅れたので本来なら予言になったはずの部分が、現状報告と化しています残念。そろそろゲラが来ます。

 猫沼は写真をどうするか相談しながら直しをやっています、晩秋に刊行。

 他、初期作品、海獣、夢の死体、ザクロの底等、講談社文芸文庫で一冊にまとめて年内に刊行いたします。

 さらに極楽の河出書房版をどこかで出すかもしれません。

 いきなり失った大量の仕事を埋めるべく頑張っているうちに猛暑になってきて、それでも猫の腫瘍は再発していません。元気にしています。猫は夏なので水へのこだわりがすごくなって、後手術前後死なれるのが嫌で甘やかしてしまったため、大変な事になっています。写真参照です。

ピジョンさん画像

 ところで猫の腫瘍の種類をついに、ここに書いておきます「低悪性の末梢神経鞘腫」というものです。この前書かなかったのは決心が付かなかったから、大変数が少ないにも係わらず、この病気なぜか診断の見解が異なる人々がコメント争いをしたりして荒れるのです。いろいろなケースがあるのですが無事でいると今度は誤診と言ってくる人がいる。しかしいくら極少数とはいえ、泣きながらこの病名で検索してる方もいると思うと、荒れるのは嫌だけど病名だけは書くべきかと。たまたまうちのは無事だったらしく四ヵ月再発もせず、麻痺とかも、「あるいは?」と思う程度で普通に動いています。

 誤診という事はありません、切除後の組織検査の結果、典型的な楕円形細胞の柵状構造とペロイカ小体のあるANTONI.A型が観察されています。油断は出来ませんが幸福にしています。昨日もカリカリ一皿キドナ小皿、やきかつお一本半を食べて絶叫疾走しました。取り敢えず快調です。しかしこれ以外には何もお答え出来ません。私は専門家ではないですし絶望的な見解を押しつけられたくもないですので(という事でモモチさんにお願いしてついにコメント欄を切っていただきました当分開けません)。

コロナは続くけど

 どう見ても今が第二波、みなさんもきっとうんざりしているでしょう。それらは九月発売の群像で、ともかく、なんとかして生き延びましょうよ、どうかご無事で!



                         八月十二日 笙野頼子

追記

群像十月号に、引きこもりてコロナ書く、百六十枚を発表しています。副題は本文に述べたとおりです。

 内容は、例の阿鼻叫喚内閣、阿鼻政権の打倒祈願です。最後、主人公はセーフが国民にかけた呪いを少しでも叩き返そうと、家の熊野丹丹大神様のお力を借り、ささやかな呪法を行います。ところで、……。

 その校了の翌日、首相が退任しました。と言っても生霊返しきいたっ!などと馬鹿な事を言っているわけにもゆきません。何か罠がある。そう思いながら進むしかないしかし。

 今仕事が多いしフィールドワークも復活していて体調最悪なのに、ふっと家の隅に溜まっていた埃などが拭けるようになりました。安倍批判を初めてから何年になるのか、……
ともかくひとつ良いことと感じています。

 というわけで皆様既にこの小説は「目的を達して」しまいました。しかし結局、ひとりいなくなっても三十○はいます。その上まだまだ復活してくるかもしれない要監視のフェイク総理です。なのでこの小説をどうかぜひとも、お読みください。

 その他に、コロナ、マスク、種苗法改悪と農民連について、……つまりこれはひとりの市民の目から見た阿鼻叫喚内閣の小さい総括です。

Bご報告した文芸文庫の目次でございます


  • 海獣
  • 石榴の底
  • 呼ぶ植物
  • 夢の死体
  • 背中の穴
  • 記憶カメラ

記憶カメラは書き下ろしの短編小説(三十枚)です

解説は菅野昭正さんにお願いしました

題名は「海獣、呼ぶ植物、夢の死体」初期幻想小説集とするはずなのですが
幻想より幻視の方がいいような気もします、どっちがいいでしょう?

 しかし実は幻想と言っても「夢の死体」など案外に外の出来事が入っています

 というのも、私は家を出てから三十半ばまでずっと女子専用スペースに暮らしていてしかも最初の九年間は銭湯に通っていたわけです

 どこでも必ず悩まされたのが浸入痴漢の問題。夢の死体の後半に随分書いています。

 書きたしの短編にもついつい書きました。

 ゲラを読み返して風呂無し住居から九年間銭湯に通っていた事を思い出してしまい現在の銭湯はどうなっているのだろうかと、……私が生活必要上通っていた当時、そこはけして清潔ではなく混雑していたし、その中で妊婦さんが上のお子さんを次々と洗ってあげていた。しかも銭湯は帰りに痴漢が出ます。

 刊行は十一月予定と聞いています。変更になったらまたお知らせします。

Cついでに猫沼のご相談

 写真集から書き下ろし小説になってしまいましたがその後も猫手術で書き足しをまたしました。著者校もがんがん入れている最中なのでもう三百枚に迫っているかもしれません。さてこうなると大量の写真をどうすれば良いのか。

  1. 1 小冊子にして函入りの本にしてそこに入れる、しかしこれでは高価格に
  2. 2 猫キッチン荒神のように作中に入れる、カラー写真なしで通常価格
  3. 3 写真集を別に出す、でもそれだとそちらには猫エッセイ程度しか入らないことに

 これ、アンケートにはしません、どうぞよろしくお願いいたします。

    笙野頼子

 共産党の某委員会事務局に何度かメールしていくつか質問しました。